COVID-19感染拡大の中で徒手理学療法を行う際の留意点
COVID-19感染拡大の中で
徒手理学療法を行う際の留意点
(公社)日本理学療法士学会
徒手理学療法部門
2020年4月19日
COVID-19の感染拡大に伴い、緊急事態宣言が各都道府県に発令されました。徒手理学療法部門では少しでも多くの会員と感染予防の方法を共有できるよう、臨床における留意点をまとめました。基本的な感染対策はWHOなどの推奨方法と同様ですが、外来患者様を対象とする会員の方が多いことを想定した具体的な対応方法と、部署内における実技研修の留意点に特化してまとめました。それぞれの施設により構造や人員、対象者などの環境が異なるため、下記を参考に皆様の職場で最善な方法を各部署と連携してご活用いただきたいと思います。
1. 自己管理
インフルエンザと同様の感染対策に加え、下記の管理を推奨します。
1)手指衛生と保護
手洗いと消毒を繰り返し手荒れ・ひび・あかぎれが起これば皮膚のバリアが奪われ手からもウイルスが体内に侵入しかねません。日々のハンドクリーム使用など手の保護も忘れずに行いましょう。
2)検温
体調変化の有無にかかわらず、毎朝行いましょう。37.5度以上の発熱または呼吸器症状を伴う場合は無理に出勤せず、部署管理者へ報告し対応を検討してください。安易な自己判断は感染を広げる可能性があります。
3)十分な睡眠時間
睡眠不足は免疫力の低下を引き起こします。十分な睡眠時間を確保しましょう。
4)本人のみでなく同居家族等の体調も記載する体調管理表(別紙 ※ページ最下部)の運用
家族内感染を予防するためにも推奨します。
5)飲食を伴う会合や外出を行わない
マスクを外した状態では経口感染のリスクが高まるため控えましょう。
6)公共交通機関利用の見直し
公共交通機関にて通勤する場合は、混雑具合(乗車率)を職場に伝え、職場の指示を待たずに自らも時差出勤を希望するなどの対応が必要となります。可能であれば自動車・自転車通勤に変更することも検討してみてください。
2. 所属部署での注意点
①病院、老人保健施設などの入所施設
1)理学療法士の配置見直し
一人の理学療法士が複数の病棟・フロアの患者様・利用者様を担当すれば感染拡大リスクが高まります。外来や通所の担当者を限定し、入院・入所についても病棟・フロア毎の担当理学療法士を配置することが望ましくなります。
2)担当患者を限定する
一人の患者様・利用者様を複数の療法士で担当することも感染リスクを高めます。可能な限り一人の療法士で担当することを推奨します。
3)患者同士の接触を避ける
リハビリテーション室における患者同士の接触は感染リスクを高めます。理学療法の実施において複数の病棟患者で時間と場所を共有しない、病棟患者と外来患者の対応時刻や場所を分けるなど、できる限り時間や空間を分ける対策を推奨します。またマスクを持参していない患者様にはキッチンペーパー手作りマスクの提供も検討してみてください。
https://weathernews.jp/s/topics/202002/140115/
4)リハビリ室でのレイアウト
ベッドの頭と足の位置を交互に配置するなどの工夫も必要です。
②クリニックなどの通所施設
1)通院患者様に対する感染予防の啓蒙
通院を余儀なくされている患者様は、日常生活に支障をきたしている方々が多く、スポーツ選手においては今の治療が今後の選手生命を左右する場合もあります。しかし感染が発生すれば、その方々の治療も実施できなくなります。よって手指衛生や検温などの重要性について丁寧に説明し、感染予防にご理解・ご協力を頂くことが重要となります。
2)クリニック入室前の検温
外来患者様の場合、入院患者様と違い体調管理が自己管理となります。クリニック内での感染を未然に防ぐためにも、クリニックへの入室前にスタッフが検温し、問診にて体調を確認することが推奨されます。また可能であれば、体温計は非接触型のものを推奨します。
3)手指消毒
大規模病院と比べアルコールの入手は困難な状態にある為、治療や検査を行う為に直接的に患者様と接する環境を優先して手指消毒用のアルコールを配置し、それ以外のスタッフはハンドソープなどを使用し流水で手洗いを定期的に行うことで対処しましょう。
4)消毒管理
診療ベッドは治療終了ごと、患者様が触れる自動ドアのボタンやドアノブ、階段やトイレの手すりは一定時間ごとに消毒することが望ましいと考えます。患者の情報などを入力する端末のキーボードやマウス、タブレットが感染経路と考えられる事例も見られるので注意が必要です。休憩また待合に雑誌や絵本、宣伝用のパンフレットや冊子などが置いている場合は撤去する必要があります。
5)飛沫予防
マスクの着用を他者への飛沫予防として、院内スタッフ着用の徹底のみでなく、クリニックを利用される患者様にも徹底して着用、お持ちでない方は、前述のキッチンペーパー手作りマスクの提供、難しい場合はハンカチ等で口を覆って頂くようご協力を頂きましょう。
③休憩時間
1)職員間の接触も最低限に
職員間の感染予防も重要になります。職員食堂では換気を行い、対面を避け、休憩・昼食の時間をずらすことも有効でしょう。
2)食事の際の注意
食事や歯磨きなどマスクを外す際には特に注意が必要です。できる限り距離を取り、会話やスマートフォンの使用も食後にマスクを着用してから行いましょう。お菓子も個包装のものが望ましく、歯磨きも同じタイミングを避け、飛沫を広げないようにする必要があります。
3)感染ラウンドなど、第三者からの指摘
感染委員会の感染ラウンドなどを利用して各部署の飲食を伴う休憩場所を確認し改善することも必要になります。
マイクロ飛沫と換気 https://www.youtube.com/watch?v=rcf2ebG-zEM
マイクロ飛沫とマスク https://www.youtube.com/watch?v=67vtPEU0Jqc
3. 勉強会、新人教育
院内、部署内での研修にも留意が必要です。職員間においてもできる限り濃厚接触を少なくする必要があります。担当患者様が感染した場合、治療を担当した理学療法士は濃厚接触に該当する可能性があり、自宅待機が必要になることがあります。また部署内の実技を伴う勉強会は複数の理学療法士が濃厚接触となり、院内感染につながることを想定する必要があります。新人教育を含めた実技研修も感染予防策をとった上でも行うべきかを熟考する必要があります。熱心な気持ちは大切ですが、勤務に影響を与える可能性を理解し、必ず上司や感染委員会と相談の上、決定してください。
4. 院内・施設内で感染者が確認された場合の対応を確認しておく
上記はあくまで予防です。予防を行っても今回のウイルスはかなりの難敵です。施設責任者・感染委員会と可能な限り事前に対応を検討しておく必要があります。感染が疑われる患者様・職員の検査結果が出るまでには時間がかかります。地域によっては1日から数日かかります。例えば患者様が検査中である場合、濃厚接触に当たる担当理学療法士(代診を含め)を特定し、待機にするのか、担当以外の接触者はどの範囲までを待機にするのか、どの段階で部署を閉鎖させるのかなどを事前に想定・確認しておくことも必要になります。
5. おわりに
既に取り組まれていることも多いかと思いますが、まだ検討されていない事項がありましたら、感染状況を見極めご検討いただきたく思います。感染拡大の状況は日々刻々と変化します。油断せず後手後手にならないよう、長期戦を見据えた先手先手の対応を心がけましょう。
※別紙 体調管理表