診療参加型臨床実習における 臨床教育者マニュアル

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巻頭言

初版の発行にあたって

 臨床教育という教育フィールドの問題は、私たちが臨床活動を行う上で不可欠な後進育成の問題なのです。臨床実習はこの臨床教育の端緒となり、これが効果的に実施できないということは、すなわち新人教育を含め現場での人材育成を行えないということを意味します。

 実習生用の特異な臨床実習指導方法は、特異であるがゆえに卒後研修に活用できず、卒前卒後のシームレスな臨床教育とはなっていません。この抜本的教育課題があったことに加え、医学教育で指摘されたコンプライアンスエラー(患者の人権および権利保護)への批判が社会的な高まりをみせ、私たちの臨床実習は是正勧告を受けるような形で、強引に変革が求められました。概念や方法を妄信してきた従来の臨床実習スタイルを変更するためには、抜本的なパラダイムシフトが求められるのですが、内発的な改革でないため適切なシフトを伴わないまま臨床実習の現場は大混乱となった訳です。指定規則にて臨床実習指導には資格が必要となりましたが、急ピッチで開催されている資格取得のための講習会では新たな臨床実習への批判の声が散見されるのもパラダイムシフトを伴っていないのであれば頷ける状況ではあり、小手先の方法論修正に留まる危惧があります。

 本マニュアルは、本質的にはパラダイムシフトを支援するものとのコンセプトで作成に取り掛かっています。しかし、この初版では先ずは会員の皆さまに手に取り読み活用していただく必要があるとの考えのもとで、これならできそうだと感じていただけるように極力シンプルなものとしました。先ずは新しい臨床教育パラダイムに興味を持っていただき、その上で実践していただく必要があると考えていますので、会員諸氏からの疑問や意見を反映しながら改訂を重ね、パラダイムシフトを支援する目的を果たしていければと考えています。

 冒頭にも書きましたが、臨床教育の問題は私たち理学療法士界の質向上の問題です。臨床の中で後進をしっかり育てることができない職能集団に未来はありません。理学療法の実践同様に、臨床教育も経験則に依存せず理論的枠組みから見直す時期であると考えていますので、本マニュアルが多くの会員施設で活用されることを願っています。

2022年11月
理事長 中川法一

発刊にあたって

 この度、「診療参加型臨床実習における臨床教育者マニュアル」を発刊致しました。2018年10月に指定規則が改正され、臨床実習の在り方が見直されました。新しい指定規則の中では臨床実習の指導方法として診療参加型臨床実習が望ましいとされています。こうしたことから、現在各地で開催されている臨床実習指導者講習会や日本理学療法士協会から発刊されている「臨床実習教育の手引き(第6版)」の中でも診療参加型臨床実習の概要や方法が紹介されています。

 しかしながら、講習会に参加された先生方の中には、『実際にどのように展開すればよいのか分からない』といった声も少なくありませんでした。

 こうしたことから、大阪府理学療法士会生涯学習センターの臨床実習教育部では、診療参加型での臨床実習教育をどのように展開すればよいのか、その教育学習理論や教育手法を臨床実習教育者(Clinical Educator:以下、CE)の先生方が理解しやすいマニュアルを作成することを目標としました。本マニュアルは、読まれた方がすぐに実践しやすいよう臨床実習場面における具体的な状況(実践例)を挙げながら教育学習理論に基づいた段階的指導方法について写真や動画を用いながらわかりやすく解説しています。また、診療参加型臨床実習を展開する上での注意点やポイント、アドバイスなども随所に記載していますので、CEの先生方が普段お持ちであった疑問や悩みが解消される一助になっていただければ幸いです。最後に、本マニュアルによって、適正な診療参加型臨床実習が展開できる施設が増えることを願っています。

2022年12月
一般社団法人 大阪府理学療法士会生涯学習センター
臨床実習教育部