診療参加型臨床実習における 臨床教育者マニュアル

教育学習理論に基づく診療参加型臨床実習の実践例

運動スキルの指導例

運動スキル:検査測定や理学療法の技術のことを指します。

  1. 見学
  2.  指導したい内容を解説しながら見学をさせます。なお、指導する際は技術を細分化すると良いです。

    図1:MMTの見学

     図1ではMMTの測定場面で事前に「抵抗位置」をしっかりと見学するように実習生に伝えています(赤○印)。また、検査結果を記載してもらうように指示し診療参加を促しています。複数の症例で「抵抗位置」・「声掛け」・「代償姿勢の確認」などの見学を行い、模倣へと繋げると良いです。一つのスキルを細かく分けて見学させることが重要です。

  3. 模倣
  4.  実習生が見学した内容を部分的に実践していく段階です。この段階では、いきなり実習生に全行程を実践させるのではなく、できることから実践させていく指導が重要となります。

    図2:ROM測定における関節誘導の模倣

     図2にあるように見学から模倣へ移行する際にはCEが手取り足取り指導・修正していくことが重要となります。「ROM測定」の技術を細分化し、「関節誘導」の部分のみをCEと実習生が一緒に行い、技術の向上を目指していきます(赤○印)。できるだけ失敗経験を無くすことが重要です。見学場面と同様に複数の症例で「関節誘導」・「ゴニオメーターの読み方、当て方」・「ランドマークの確認」などを学ばせていきます。

  5. 実施
  6.  この段階では、実習生がCEの監視・監督下で、実践できる状態です。「実施」となっている技術であっても実習生に任せて単独で行わせるのではなく、必ずCEの直接監督下での実施が必要です。「実施」となり、技術は獲得している状態であっても、継続的により技術向上のためにポジティブフィードバックを行うことが必要です。

    図3:MMTの実施

     図3にあるように実習生が対象者に対して、MMTを実施します。その際、CEは誤りや修正点が無いかを確認し、実習生にフィードバックしていきます。出来るだけ、その場で修正する方が実習生は理解しやすいです。

    advice!
    模倣から実施へ繋げるには、次に何が出来れば良いのかをCEが形成的に評価をし、学生の能力に応じて適切なフィードバックを与えることが必要です。

    参考:Hattie J, Timperley H. The power of feedback. Rev Educ Res. 2007; 77:81–112.


    point!
    図4や図5のように技術指導する際には、その技術を細分化して指導すると実習生は失敗が少なく、対象者保護にも繋がります。また、CEも一度にすべてを確認・修正するのは限られた診療時間内で困難な場合が多いと思います。時間を有効かつ効果的に使うには、技術を細分化して指導することがポイントとなります。

認知スキルの指導例

認知スキル:多くの情報から要点を整理し問題点の抽出やその状況に応じた臨床推論プロセスのことを指します。 単なる知識ではなく、情報収集能力、総合判断能力(統合と解釈)のスキルです。

  1. 見学
  2.  CEの考えている臨床推論を実習生に伝えます。説明は実習生が理解しやすいよう、わかりやすい言葉での説明が重要です。情報過多にならないようにすることも必要となります。

    図6:脳内イメージの可視化

     膝折れの説明をする時に実際の理学療法評価などを加えて脳内イメージを可視化(図6)して実習生に伝えていくことも有用です。

    point!
    認知スキルの見学はCEや臨床チームの臨床推論を見たり、聞いたりすることです。カルテ内容の説明やカンファレンスでの内容を解説すると良いでしょう。

    参考:有馬慶美.理学療法養成課程におけるクリニカルリーズニング教授法.PTジャーナル43.2009;101-105.

    中川法一(編).セラピスト教育のためのクリニカル・クラークシップのすすめ 第3版

  3. 模倣
  4.  見学で説明した内容を実習生にヒントを与えながら考えていく段階です。全ての内容を実習生に考えさせるのではなく理解度に応じて質問の難易度を変えていきます。

     模倣に移ってすぐの段階では比較的難易度の低い「yes・no」で答えられるクローズド・クエスチョンを使用します。実習生の理解度に応じてオープン・クエスチョンに質問の仕方を変更していきます。

  5. 実施
  6.  実施の段階では実習生の考えを聴き、修正・補足があればその都度指導していきます。

     実施の段階では実習生の考えを聴き、CEとディスカッションしていくことが重要となります。実習生が積極的に発言しやすい雰囲気づくりが重要となります。

    advice!

    実習生には診療チームの一員として、しっかりと役割を与えてあげることが重要です(正統的周辺参加)。歩行練習を例に挙げると、いきなりリスクの高い(中心的役割)歩行介助を行わせるのではなく、杖・歩行器・平行棒などの高さ調節といった周辺業務から参加を促し、CEの技術を直近で学び、徐々に中心的役割へと指導を進めると良いでしょう。周辺参加は最終学年から行わせると実習中に中心的役割まで到達できません。1年生から正統な役割を与え、できることから周辺参加させていきましょう。

    advice!

    動作介助の段階的指導において、見学の段階では介助の位置や介助量などを教示していきます。 また、同時に実習生が傍観者とならないように周辺業務である歩行器を抑えるなどの役割を与えると 良いでしょう。模倣の段階では、CEは実習生の行動をサポートしながら指導します。 介助のスピードや動作の誘導方向など目に見えない部分もCEが手取り足取り伝えていくようにします。見学・模倣いずれにおいても実習生が意識するポイントを絞ることが重要となります。