診療参加型臨床実習における 臨床教育者マニュアル

ハラスメント防止対策

ハラスメントとは

 ハラスメントには様々な種類のものがありますが、共通して言えることは相手に対する発言・行動によって不快な気持ちにさせたり脅威に感じさせたりすることです。つまり、その発言・行動を受けた側がハラスメントだと感じるかどうかがポイントとなります。また、CEは実習生のみならず、対象者に対するハラスメントについても認識することが重要です。

実習生へのハラスメント防止

 実習生へのハラスメントが起こる要因として一番に挙げられるのは信頼関係が無い状態で実習が進行していることです。信頼関係が形成されていれば問題とならなかった行動でも、小さな問題行動がハラスメントへと繋がります。つまり、ハラスメントは受け手の感じ方である以上、「指導上これをしてはいけない」などの方法論では根本的な解決策とはなりません。実習生とコミュニケーションを積極的に取り、育てるという熱意をもって指導し、信頼関係を築くことこそが最大のハラスメント防止となります。

対象者へのハラスメント防止

 対象者は臨床実習において実習生の練習台では決して無く、障害を改善するために理学療法を受けています。従来の臨床実習は、通常の診療時間とは別に対象者の時間を使って、実習生が能力に見合わない評価・治療を行うこと自体が問題であり、対象者の人権・権利の保護の観点からも逸脱していました。つまり、一番のハラスメントの被害者は対象者であったということを理解する必要があります。上述にもあるように実習生の失敗を最小限にすることで対象者の保護を行うことがCEにおける責任であり、対象者へのハラスメント防止にも繋がります。また、実習生の診療参加に対する同意を得ることも患者の権利を守る上では必要となります。

point!
臨床実習におけるハラスメントは、実習生に対するものが注視されやすいですが、臨床実習を展開するには対象者保護という観点から対象者へのハラスメント対策が最も重要です。この点をCEは、医療人の倫理観として、しっかりと認識する必要があります。対象者の権利を守るために対象者へは実習生の診療参加に対する同意を得ること、実習生へは段階的指導を行うことが対象者保護に繋がります。

引用:中川法一(編).セラピスト教育のためのクリニカル・クラークシップのすすめ 第3版